かぐやひめ
昔々のこと。
竹取のおじいさんがいました。
ある日、おじいさんが見つけたのは、キラキラ光る美しい竹。
「なんと不思議な竹だろうか。こんな竹は初めて見た。」
キラキラ光る竹を切ったおじいさんは、目を丸くしました。
竹の中に、小さな女の子がいたからです。
「きっと神様が授けてくださったのだ。家に連れて帰って育てよう。」
ちょっとおじいさん。それは誘拐ですよ?
「捨て犬は拾って育てても、誘拐じゃないじゃないか。」
犬と人間は違いますよ!
「人間なのか・・・?」
・・・宇宙人かもしれないけど・・・。
・・・。
お話を進めます。
「そうしてくれ。」
おじいさんは、女の子に『なよ竹のかぐやひめ』という名前をつけました。
おじいさんとおばあさんに育てられたかぐやひめは、輝くばかりに美しい娘になりました。
「やっだー。美しいなんてそんな本当のこと・・・」
性格さえ良ければ完璧だったのですが、天は二物を与えずとはこのことでしょうか。
「何か?」
いえいえ。とまあ、とても美しい姫だったので、何十人も何百人もの若者がかぐやひめに会わせてください。
結婚させてくださいと、訪ねて来ました。
その度に、おじいさんはかぐやひめに、表に出るよう言いましたが、かぐやひめは部屋の影から戸口を覗き見ては、
「鏡を見てからまたいらして下さい。とお伝え下さいませ。」
と、ピシャリと言い切り、部屋からおじいさんを追い出しました。
おじいさんは、そんなことは言えないので、
「かぐやは、恥ずかしがり屋でして・・・。誰とも会う気は無いようです。申し訳ございません。」
と、何度も頭を下げました。
何十人も、何百人もの若者は諦めました。が、五人の若者は諦めません。
毎日、毎日やって来てかぐやひめに結婚を申し込みます。
「うざいですわ。」
「まあまあ、そう言わずに・・・;」
「わたくしは結婚はいたしません!
誰か一人のものになるには、もったいないと思いませんこと?」
「でも、結婚は・・・」
「女の幸せだなんて古臭いこと言いませんわよね?」
「・・・。とっとにかく会うだけでも・・・」
「ふぅ。仕方ありませんわね。会ってやろうじゃない。」
本当に会えば、皆さん簡単に諦めるかもしれないですものね。(明)
「どーいう意味ですの?」(怒)
そのままの意味ですが。(平)
キレるかぐやと、宥めるおじいさん。
というわけで、その五人の若者を座敷に通し、かぐや姫は、初めて表に姿を現しました。
「あのー・・・かぐや・・・」
「私ね。宝物を持ってきて欲しーのV」ぶりっV
「「は?」」
「あ・・・ごほん。宝物を持ってきてくださった方と結婚いたしましょう。」
「やっと結婚する気に?」(明)
まさか。おじいさん、彼女が出した宝物リストをよく読んで見て下さい。
「えーっと。『天の国にある仏の御鉢。決して燃えない火ねずみの皮衣。
金の枝に銀の実をつけている宝来の木。海の底に住む龍の持っている玉
。
燕が抱いている子安貝。』・・・何ですか?コレは。」
見たことも聞いた事も無い物ばかりでしょう?
こんな物見つかるはずも無いんです。
ここまで性格が悪いとは思いませんでしたよ。がっかりです。
「うるさいわね!わたくしにはわたくしの事情があるんですわ!」
えー。とにかく、かぐや姫に振り回される可哀想な五人の若者は、必死になってその宝物を探しました。
「エントリーbP.いしづくりの石作みこ皇子殿は、国中を歩いて、仏の御鉢を探したそうです。
バカですわよね。天の国のってわざわざ言って差し上げてるのに。」
「かぐや!失礼なことを言わない!」
彼は足がボロボロになるまで探し歩きましたが、見つかったのは古ぼけた石の桶ばかり。仏の御鉢はどこにもありません。
「だから、この国には無いって。」
「かぐや!阿部右大臣殿が火鼠の皮衣をお持ちくださったぞ!」
「火をつけて。」(冷)
「え・・・。」
かぐや姫は、綺麗な箱を紐解き、皮を火の中に放り込みました。
途端、皮はメラメラと燃えてしまいました。
「・・・。猫の皮ですわね。こんなもので私の目を誤魔化せると思ってらっしゃるの?」
「かぐや!落ち着いて。今度はくらもちの車持みこ皇子殿が宝来の木をお持ち下さった。見てみよ!本物だ!」
「・・・。それはそれは命懸けの旅だったでしょうよ。しかしあなたは傷ひとつないのですね。」
あら、おじいさん。もう一人来客のようですよ?見たことのない方ですが。
「え。鍛冶屋さんですか?」
「この木はあの方が作ったものですわね。」
車持皇子は、うっかりまだ作り賃を払っていなかったそうで・・・。
請求にいらっしゃったのですね。
怒ったかぐやひめは、その宝来の木を、鉢ごと手で払い落とし、割れた欠片をひとつ残らず持ち帰るよう命じました。
「あぁかぐや。どうか落ち着いてくれ。このままでは貰い手が無くなってしまう・・・。」
「だから私は結婚しないんですってば!」
おおともの大伴だいなごん大納言は、海に出て、龍を探しました。が、探しても探しても龍はどこにもいません。
「だって海の本当に底。海の国に存在するんですもの。」
「あちらの海、こちらの海と探し回って、いくつもいくつもの船を作った大納言は、お金を使い果たしてしまったそうだ。」
「そりゃそーでしょうよ。本当バカばっかりですわね。」
子安貝を探したのはいそのかみの石上ちゅうなごん中納言。中納言は高い高いはしごを上って、燕の巣を見つけました。
「そんなトコロにあるわけないですわ。」
「何かを掴んだ瞬間、はしごが倒れて、中納言殿は真っ逆さま。」
「あーぁ。」
地面に落ちて、腰を折った中納言が、しっかりと握りしめていたのは、燕の糞でした。
「でしょうね。」
「「かわいそー。」」
「何ですの?2人して!」
こんなに性格の悪いかぐや姫を目にしても、その美貌にはかなわず、美しさのみが噂として、まだまだ広まっていました。
「当たり前ですわ!私はこの国で一番美しいんですもの。」
浮き世離れしたその美しさは、やはり宇宙人を思わせ・・・
「その響き、すごく失礼じゃないかしら?」
「かぐやが宇宙人だろうと化け物だろうと私の娘には変わりな・・・」
「それが娘に言う言葉ですの!?化け物って何よ、化け物って!」
まぁとにかく、この噂は帝のお耳に入るまで広まっていました。
「かぐやが化け物だっていうことが!?」
「違う!私が美しいってことですわ!」
え・・・。やっぱり化け物だったの?
「違うって言ってんでしょーが!やっぱりって何ですの?さっさと話、続けなさいよ!」
えー。そしてですね。帝がかぐや姫をおきさき御后にしたいとおっしゃいました。
「帝は誰よりもりっぱな方なのだよ。御后になれば誰よりも幸せになれる。」
おじいさんもおばあさんも言いましたが、かぐや姫は帝に会おうとはしません。
「お願いだから、そろそろ親孝行だと思って結婚してくれないか?帝はお前好みの美形だぞ?」
「そういう問題じゃありませんのよ。」
そう言ったきり、あの威勢のいいかぐや姫は黙って部屋に閉じこもっているばかり。
簡単に言うとひきこもりですね。
「そんな問題で片付けんでくれ。」
そしてあの毒舌かぐや姫は、寂しそうなため息をつくばかり。
「一体どうしたのかね、かぐや姫」
心配して尋ねるおじいさんを初めは無視していたかぐや姫でしたが、やっと口を開きました。
「実は、結婚出来ない理由は別にあって・・・。私は天の国の娘なのです。
長い間ご一緒に暮らしましたが、私が美しく成長することが出来たので、
もうすぐ迎えの者が来て、私を連れて行くのです。」
「なっ・・・!なんという事だ!」
おじいさんは驚きのあまり座り込みました。無理もありません。
まさか本当にかぐや姫が宇宙人だったなんて。
「宇宙人と言わないで下さいませ!私は月の姫なんですのよ?
そんな得体の知れないものと一緒にしないで!
今、シリアスな場面なんですから!ねぇ?おじい様」
「そうか・・・どうりで・・・。竹から生まれるなんて、変な子だと思ってたんだ。
やはり化け物だったのだな・・・。」
「そこ!化け物説から離れなさい!
大事なのは私が何者かということではなくて、月に帰らなければならないというトコロですわ!
あなた方は私がいなくなっても構いませんの!?」
「「・・・微妙。」」
「そんなトコロでハモらないで!」
だって、あなたがいなくなっても、私は何も困らないもの。
でも、あなたがいないと、ネタがなくてつまらないわ。
「そうそう。」
「おじい様!ナレーターはともかくも!あなたはもっと悲しんでくださいませよ!
かぐや、悲しくて泣いちゃう!」
「じょ・・・冗談だよ、かぐや。おまえは私の大事な娘だ。帰すものか。
天の国のやつらが何人来ようと、お前を渡しはしないぞ」
いやいや、演技でしょう?散々日頃の彼女を見ていて何でひっかかるんですか。
「おじい様!かぐや嬉しいっv」
「おぉよしよし、可愛い娘だ。」
まぁ円満ならいいんですが。
「でも・・・どんな力も天の人たちには敵いません。」
しかし、おじいさんは一番奥の部屋にかぐや姫を監禁しました。
「言葉が悪くないか?」
じゃあ・・・閉じ込めました。
「監禁の後に聞くと、どれも悪く聞こえる気がするんだが・・・。」
気のせい、気のせい。そして帝は大勢の兵に家を守らせました。
かぐや姫が天に帰る夜が来たのです。
天のやつらを近づけるものかと、兵隊たちは弓と矢を握りしめて、待ち構えました。
「あぁ。とうとうこの時が来てしまいましたわ・・・。こちらの暮らしは割と快適でしたのに。」
月が明るく光ると、空には輝く雲が現れました。雲の上には美しい人々が乗っています。
輝く雲が舞い降りるにつれて、兵隊の体から力が抜けます。
さすが宇宙人の力!あぁっ!おじいさん。もうご老体なのですから、無理をなさらないで。
「あぁ!かぐや姫を閉じ込めた部屋の扉が勝手に!」
降りて来た人々は、かぐや姫に天の羽衣を着せました。扉はというと・・・
こじ開けたみたいですね。すごい怪力です!!
「こじ開けるだなんて、そんな野蛮なこといたしませんわ!魔法を使ったのですわ!マジックですのよ!?
あなた方、一般人にそれが理解出来て?」
あ。バカにされた!何ですか!そっちこそ宇宙人のくせに!
「最後くらい仲良うせんか!」
案外、諦めがいいんですね。
「おじい様にとって、私ってその程度だったのですわね!」(泣)
「いや・・・そういうわけでは・・・」
天の方々、イライラしてるみたいですよ?
「やだ!帰りたくないですわ!」
それでは話が変わってしまうんですけども。
「だってぇ。嫌なものは嫌ですわ!」
「かぐや!わがまま言わないの!そんな風に育てた覚えは無い!」
「おじい様ぁ」(泣)
逆効果ですよ。おじいさん。
「仕方ないですわ。私も大人にならなくては。」
納得するんだ・・・。
「これは餞別ですわ。飲むと、年をとることも、死ぬ事も無い不死身の薬ですの。帝にも差し上げて下さいませ。」
「かぐや・・・。」
「さよなら、おじいさん、おばあさん。それからナレーター。お元気でお過ごしくださいませね?」
そしてかぐや姫は天高く上って行きました。はぁ。うるさいのがやっといなくなりましたわ。
「ナレーター殿。うつっとるぞ?」
あれ?ま、それは置いといて。どうなされたんですか?あの薬。
「あぁ。不死身の薬とやらか?うさんくさいから、天の国に一番近い山の上に運んで燃やした。」
うさんくさいってあなた・・・仮にも娘の餞別を燃やすなんて・・・;
「この姿のまま長生きしてもな。」
あー。そうですね。
「をい!」
まぁ、そんなわけで、おじいさんとおばあさんは仲良く幸せに暮らしました。
そして不死の薬を燃やした山を、人々はふじの山と呼ぶようになりました。
END

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