赤いくつ








【無音】★幼児用の絵本は元のストーリーがかなり省略されており、高学年や大人を対象とした訳本をよむとイメージが大分異なります。
しかしこれは、脚本家が勝手に改造したまた新しいテイストの物語・・・。
【@BGM・軽めの明るい曲】
☆あるところに、とても綺麗な、可愛らしい女の子がいました。
けれども、家が貧しかったので、夏はいつも裸足で歩かなければなりませんでした。
冬になると、大きな木靴を履きました。
★その少女の名前をカーレンと言いました。
彼女は、二人で暮らしていた母も亡くしてしまい、天涯孤独の身になってしまいました。
☆その少女を、あるお金持ちの恰幅のいい年取った奥様が、可哀想に思い、
養女に迎え入れてくださいました。

★さて、カーレンは大きくなって、堅信礼を受ける歳になりました。
小さな貧しい頃とは似ても似つかない、美しい服を着て、
知識も豊富な素晴らしい娘に成長していました。

「おばあ様。堅信礼に着ていく服は揃いました。ただ、まだ新しい靴が揃っていませんの。」

☆ただ、彼女はもうすっかり金持ちの一人娘として育ちましたもので、
遠慮や謙遜といったものは少しも持ち合わせていない、昔の苦労をすっかり忘れてしまった
贅沢で我がままな性格に成長してしまったのも事実で・・・。

「ん?今何か聞こえたような?」

☆何も聞こえませんでしてよ?

「そう?」

★そんな訳で、カーレンは堅信礼に履いていく新しい靴を街の立派な靴屋に
奥様と二人で買いに行く事になりました。

「まぁ、ステキ!!」

★カーレンの目に飛び込んできたものとは・・・
ぴかぴか光るゴキブ・・・

「赤い靴!!」

☆あ、危ないところでした・・・。
わたくし、ゴキがこんな間近で飛ぶのを初めて見ました。はぁはぁ。

「ちょっと!どこ見てんのよ!!この靴よ!」

☆赤い・・・艶出し皮の靴・・・?
靴屋さんが言うには、その靴はある伯爵のお子様の為に縫ったものだったのですが、
足に合わなかったので、そのままになっているということでした。

「おばあ様!私、これがいいわ!この靴が気に入った!!」

★カーレンが他の棚を見に行っていた奥様を呼び戻して、そう叫ぶと、
奥様は快く買ってくださいました。
☆しかし、目の悪い奥様はそれが赤い靴だとご存知ありませんでした。
赤い靴を履いて堅信礼に出るなんてコト、奥様が了承するはずがありません。
けれどもカーレンは、やはりその靴を履いて、堅信礼に出てしまったのです!!
あぁ、なんてことっ・・・!

【A教会音楽的BGM】
「ふふっ。皆私の可愛い赤い靴を見て羨ましがっているわ・・・。」

☆カーレン、それはあなたの思い違いです。
場違いなあなたのその靴を見て、大人たちは不審がっているのですよ。

「え・・・?」

★そんなこと無いわ。カーレン。皆、あなたのそのぴかぴか輝く靴が欲しくて仕方が無いんだよ。
あなたまで彼女の靴が羨ましいの?僻んでいるようにしか聞こえないね。
☆まぁ!折角人が忠告して差し上げているのに!!

「うるさいわね。黙ってて頂戴。」

☆カーレンはそんな調子で、牧師様が神聖な洗礼のことや、神様との約束の事をお話になり、
これからは、一人前の立派なクリスチャンにならなくてはならないとおっしゃっている間も、
聖歌隊が賛美歌を歌っている間も、ずっと彼女は自分の赤い靴のことばかり考えていました。
★お昼過ぎ、他の人に聞いて、カーレンの履いている靴が赤い事を知った奥様は、彼女に言い聞かせました。
☆堅信礼に赤い靴なんか履いていくのは、本当に相応しくない、悪い事なのです。
これから教会へ行くときは、例え古くても構わないから、必ず黒い靴を履きなさいと。
そう、だから私はさっきからそう言って・・・。
★ええい!だまらっしゃい!!可愛いお気に入りの靴を履く事の何が悪いっていうんだよ!
カーレンが履きたいって言ってんだからいーじゃねーか!
☆さっきからなんなんですか、あなたは!余計な事、カーレンに吹き込まないでくださる?
★は?あんたこそ、何様なんだよ!!

「あーもーうるさいってば!!静かにしててよ!!」

☆カーレン。今日は聖餐式の日ですよ。奥様に言われた通り、黒い靴を・・・。
★なぁに言ってんだよ。こんな冴えない靴履いてられっか。なぁ?カーレン。

「う〜ん。やっぱ・・・コレ。」

☆あ!そっちは!!
★やっぱりな。見比べた結果だ。(棒読み)カーレンは黒い靴と、赤い靴を眺めていましたが、
結局、赤い靴を履いて家を出ました。
☆あぁ、とうとう履いてしまった・・・。
というか、あなた、やっぱりナレーター失格です!!
カーレンを悪の道に唆してばっかり!
★私は、カーレンの気持ちを尊重してるだけですぅー。

「うん。皆私を見てる。やっぱり最高だわ。私の自慢の赤い靴。」

★教会堂の入り口には、白いというよりも赤みがかった不思議な長い髭をした兵隊がいました。
彼も、なんて綺麗なダンス靴だ。
おまえさんがダンスをする時は、しっかり足にくっ付いているんだぞ。
とカーレンの赤い靴を褒めてくれました。
☆兵隊さんはそう言うと、彼女の靴のホコリを払って、靴の底を叩きました。
【無音・エコー】★(低い声で)踊れ、踊れよダンス靴。
【B踊り速い曲BGM】☆大変!兵隊さんの言葉どおり靴は踊り出し、
カーレンの意思で止めることが出来なくなってしまいました!

「な、何よこれ!やだ、やめて。誰か助けて!!」

☆ 誰かお願い!助けてあげて!
★ふん、いい様ね。
☆ちょっと、あなた!あなたがこの赤い靴を履くことに、賛成したんじゃないの!
★ だけど、決めたのはカーレン自身。私は責任を求められるようなことはしてねーよ。
☆ そんな・・・!と、とにかく奥様を呼んで・・・!!

「早く!早く止めて!!」(涙)

☆そんなこんなで、カーレンは奥様に助けられ、赤い靴を脱ぐことが出来ました。
【@元のBGM】★そりゃぁよかった。
☆さっきから、あなた言ってる事無茶苦茶ですよ?
あなたは一体カーレンの味方なんですか?敵なんですか??
★ 別に。誰の味方でも?
ただ、私はカーレンに自分ですることの責任は自分で取れって言いたいだけだよ。
私はね。あんたみたいな、私はあなたの味方です!
なんて面して、カーレンの意思を無視するのがいやなだけ。
☆な、私そんなつもりじゃ・・・!

「ちょっと!なんなのさっきから!これは私の話なんでしょう!?
そっち中心に話ししないでよ!!物語が進みにくいったらないわ!」

【CBGM静かな曲】☆あ、そうでしたね。ごめんなさい。
★どーでもいいけど、奥様病気なんだって?
☆え!?そうなんですか?どうでもよくないし!!

「(ため息)まぁね。私はおばあ様の看病しないといけないんだけど・・・。」

★ ダンスパーティーがあるんだろ?

「えぇ・・・、まぁ。」

☆ え?もしかして・・・行くの?奥様を残して・・・。

「でも、今夜だけだし・・・。」

★ 一晩でどうにかはならないでしょ。
☆ そ、そんなことわからないわ!重い病気なんでしょう?
★ 別に奥様には他にも看病してくれる人いるんじゃないの?今夜だけなら。

「そうよ!私じゃなくたって・・・。それに、どうしてもあの赤い靴を・・・!」

☆ あれはダメよ!あんなに酷い目に遭ったじゃない!奥様が物置の奥に仕舞われたでしょう?

「で、でも私あの靴が本当に好きなの。」

★ 奥様より?

「え?」

★ 奥様より、靴の方が大事なの?

「そ・・・れは・・・。」

☆たまには良いこと言うじゃない!そうよ。カーレン!今はダンスパーティーより奥様の方が大事。

「でも・・・。本当に私楽しみにして・・・。」

☆ カーレン!

「だって!初めてのダンスパーティーなんですもの!!小さい頃からどんなに夢見て・・・!」

☆ だけど、ダンスパーティーにはいつでも出られるわ!

「でも今年のパーティーは、一度しかないのよ?」

☆ カーレン!!!
★ そんなに言うなら行きなさいよ。そんなあんたに看病される奥様が可哀想だわ!
☆ ちょ・・・!なんてこと言うのよ!あなたも止めなさいよ!!
挑発なんてしないで!!

「わかったわよ。」

☆ わ、わかってくれた!?

「行くわよ!そうよ!どうせ私なんか、おばあ様より靴を選んだ最低な人間よ!!」

☆ あぁ!!最悪な展開!!
★ ここで止めたって、あのこの為になんかなりゃしねーよ。
自分で決めたことは自分でしっかり責任をとらないと。
最近のあのこは目に余る・・・。一度痛い目見ないとわかんねーんだよ。
☆ そんなぁ・・・。
あんな感じで靴と共に家を飛び出したカーレンでしたが、
ちゃっかりパーティーは思い切り楽しんでいる様子。
始めて見る煌びやかな世界に、カーレンは陶酔しきっていました。
★ まぁ、イケメンもいるわけだし??(にやにや)
☆ ちょっと、黙っててよ!
★あっ!帰ってきた!!
☆ あれ?でも、なんだか様子が・・・。

「なんてステキな夜だったのでしょう。
こんなに上手く踊れるのは、やっぱりこの赤いダンス靴だけ。」

★ 随分ご機嫌だな。鼻歌歌ってやがる。
☆ 違うわ!おかしいのはソコじゃなくて・・・。
★ ♪赤い靴〜は〜いてた〜女の子〜異〜人さんに連〜れられ〜て〜♪
☆ ふざけないで!!それに、それは同じ赤い靴でも違う話でしょ!!
足下よ!カーレンの足下!!
★ あぁ、あれね。呪いだよ。
☆ のろ・・・い?
★ そう。呪い。この間のミサの時、兵隊がかけてただろ?
【無音・エコー】(低い声で)踊れ、踊れよ。ダンス靴。
☆ それっ・・・て・・・。
★ そうだよ。私がかけたんだ。自分勝手で常識知らずなお嬢さんにな。
☆ (息を一気に吸って)なんて事・・・っ!!(嘆かわしく)
★ 今まで育ててくださった奥様に恩も忘れて踊り明かした罰だよ。
もう、あの赤い靴は履くなと奥様はおっしゃったのに、彼女はミサに履いて行った。
もう遅い。あのまま封印しておけば、こんなことにはならなかったのに・・・。

【B踊り速い曲BGM】「あ・・・れ?な、何で?足が・・・足が言う事を利かない!!」

★ このままお前は、昼も夜も、雨の日も雪の日さえも、休まず踊り続けるのよ。

「そ、そんな・・・!な、んで私がこんな目に・・・っ!」

★ それが分からないから踊り続ける羽目になる。
もう、奥様はお前を助けてやれない。カーレン、お前は優しい奥様を裏切った・・・!

(疲れた声で息を切らしながら)「や・・・やだ・・・っ!そんなのって、そんなのってない!!」

☆ カーレンは彼女の言葉どおり、踊り続け、暗い森を彷徨い、食べる事も寝ることも、もちろん
休むことさえ許されないまま、数日が過ぎました。
ごめんなさい、カーレン。私ではあなたを救ってあげられない・・・。
★ 見ろ。カーレン、懐かしい街だ。

(へとへとな声で)「こ、ここは・・・!」

★ そう、お前の家だ。
☆ 待って!あの、家から運ばれている棺は・・・!!
★ そう・・・。奥様のもの・・・。

(叫)「お、おばあ様ぁっ!」(泣)

☆ カーレンが、泣いても叫んでも、足は踊ったまま。
★ 奥様の葬儀に出ることも許されない・・・。

「ごめんなさい!天使様!!私、私・・・!やっと分かりました!!
おばあさまのお気持ちも恩も考えず、おミサの時も神様のことを考えず、
私はこの赤い靴のことばかり考えていました。いいえ、私は自分のことしか考えていなかった・・・」

【CBGM静かな曲】☆そろそろいいでしょう・・・?彼女は、本当に辛い目に遭いましたよ・・・。
カーレン、このまま行くと、いばら姫で有名な12人目の魔女の家があります。

(鼻をすすって)「・・・12人目の・・・魔女?」

☆ そう。悪い魔女が呪いの魔法をかけた後、姫をその呪いから救ってくれた、あの魔女です。
彼女ならきっと、あなたの靴の呪いを解いてくれるはず・・・。
後は・・・わかるわね?
「はい。お願いします、魔法使い様、どうか私の足からこの靴を取り除いてくださいませ・・・!」
【魔法をかけるキラキラした音】

☆親切な魔女は、彼女の願いを聞き入れてくれました。
カーレンは魔女に丁寧にお礼を言い、そのまま教会へ向かいました。そう、私たちのいる場所へ。

「どうかお願いです。私を使ってください。お給金も、何もいりません。
ただ、雨風を凌げる場所と、親切な方のお傍にさえ置いてくだされば、なんでもいたします。」

★ それからと言うもの、カーレンは働き続けました。
☆ カーレンは、慣れない仕事に時間はかかりましたが、丁寧に心を込めて奉仕し続けました。
さぁ、そろそろ許して差し上げてはいかがですか?
【@元の明るい曲】★(子どもっぽく)やだ。
☆ は?何言ってるんですか?可愛く言ってもダメですよ!?
★ だって、こんなんじゃ足りない。あの魔女もお人よし過ぎる!!
☆ な、なんであなたはそんなに意地悪なんですか!?
★ 意地悪も何も、私は悪くない!!
☆ ちょっと!訳わかんない拗ね方やめて貰えます?大人気ないですよ!?
★ んだよ。うるせーババアだなぁ!!
☆ な、なんですって!?

「ストップー!!!だから、前にもいいましたけど、私無しで勝手に続けないで!!」

☆ ★あ、いたの?

「ひ、酷すぎる・・・っ!」

★冗談だよ。あんたについての話なんだ。
☆ あなたがいなくちゃ、お話は終わりませんものね。

「え・・・?もう終わるの?」

☆ えぇ。物語的には、呪いをかけた天使に、あなたが許してもらって終わるはずなんですよ。
でも、彼女、嫌とか言い出して・・・。まったく。これじゃぁ、いつまで経っても終わりませんよ。

「じゃぁ、その方向で。」

☆ え?

「だって、許してもらったら終わっちゃうんでしょう?」

★ だろ?だから、ヤダ。
☆ ちょっと、番組のことも考えてくださいよ!
この話が終わらなかったら、天気情報にいけないんですよ?
★ じゃぁ、雨ってことで。

「せっかくだから、晴れにしましょうよ。」

☆ そんな問題じゃない!適当な事言わないで下さいぃ!!
★ だって・・・。なぁ?

「ねぇ?」

☆ もういい!!あなたたちには頼りません!勝手にしててください。
これにて、終わり!!終わりったら終わりです!!
★ 「えー。」

「私、まだお許しをいただいてないわ。物語は途中よ!」

☆ じゃぁ、私が許します。はい、終わり!
★ 私がゆるさねーと意味ねーだろー?
☆ じゃぁ、さっさと物語の通りにしてください!!
★ (面倒臭そうに)はぁーあ。しょうがねぇなぁ。じゃぁ、カーレン。あんた本当に頑張ったから、ゆるしたげる。でも、これからも、その気持ちを忘れないように。

「はぁーい!」

☆ (ため息)雰囲気ぶち壊しですね。
★ まぁ、いーじゃん、いーじゃん。
とにかく、人への感謝を忘れず生きること!というわけです。

                                    END